偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
止まっていた響一の手が再びあかりの腰を抱く。腕に力を込められると、身体がさらに密着する。そして空いている反対側の手が顎の下にそろりと触れる。
「あ、あの……私の話、聞いてましたか?」
「聞いてた」
焦って問いかけても響一はその言葉を受け流してしまう。そればかりかあかりの顎先をクイッと持ち上げ、確実に視線が合うように顔を覗き込まれる。ブラックダイヤモンドにも似た黒く深い色に、視線と心を奪われる。
「聞いてはいたが、俺は結婚した以上他の女を抱くつもりはない。もちろん離婚するつもりもないから、俺はもうお前だけだ」
「……私……だけ?」
「そうだ。だからお前に拒否されたら、俺はひとりで抜かなきゃいけなくなる」
「抜っ……!?」
響一の仰天発言に、思わず声が裏返ってしまう。
一般的に男性は女性よりも性に対する欲が強く、その衝動が心身に及ぼす影響も著しいという。彼が健全な男性ならば、性の欲望は普通に沸き起こるだろうし、定期的にその欲を発散しなければ身体も辛いのだろう。
そして響一は、結婚した以上その発散を手助けできるのはあかりだけだという。
「どうしても嫌なら無理にとは言わないが」
「……っ」
口ではあかりの意思を尊重し、あかりの決定を受け入れるような口振りだ。けれど彼の目はそうは言っていない。本心は違う。