偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「あかり」
ぽつ、と響一が呟いた名前を、あかりは聞き逃さなかった。
覆い被さってきた響一と再び目が合う。彼の顔がゆっくりと近付いてきて、ゼロ距離で見つめ合う。瞳を奪われて、動けなくなる。
黒く濡れた瞳の奥に情欲の炎が灯る。その炎がぐらりと揺れたように錯覚した直後、唇と唇が重なった。
「ん、ん……」
触れ合った唇は思ったよりも柔らかかった。柔らかくて、優しくて、甘かった。
だからあかりも身を委ねようと思ったのに、開いた唇の隙間から舌を挿し込まれるとついびっくりして身体が飛び跳ねてしまう。
「あかり……可愛いな」
過剰な反応に響一が一旦唇を離してくれる。そして優しく微笑む表情に、またも心臓がどくりと跳ねる。慣れないキスとあかりを愛でるような呟きが恥ずかしくて、つい視線を逸らしてしまう。
けれど身体の拘束が解かれることはない。顔を背けても響一はまた別の角度からあかりの唇を奪い、すぐに同じように舌を食まれる。
ぴちゃ、と甘い蜜を絡ませ合うような恥ずかしい音が聞こえて、次第にその蜜の沼へ溺れていく。気がつけばあかりも夢中で舌を絡ませている。
(キスって……こんなに、気持ちよかったの……?)
響一の長い舌に口内を貪られると、思考がだんだんと霞んでいく。身体の奥がじくじくと疼く。まるでより深い場所に触れて欲しいと主張するように。優しい指遣いに、すべてを暴かれたいと思ってしまうほどに。