偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「あの……奏一さんと響一さんって、仲良しですか?」
先ほど名前で呼んで良いと言われていたので、その言葉に甘えて彼の名前を呼ぶ。会話の内容は完全にサロンの店員と常連客のものではないが、別にプライベートの話を一切してはいけないという決まりもない。
「ん? 俺と兄さん?」
「……はい」
あかりが思うに、奏一は兄の感情を大きく読み間違えている気がする。だから双子とは言え、二人はあまり意思の疎通が取れていないのでは? と思ってしまう。
響一は両親には事実を伝えていないが、弟には内情をすべて打ち明けている可能性がある。逆に誰にも何も伝えてない可能性も十分にありうる。
もちろんあかりの口から奏一に事実を暴露するつもりはない。ただ、彼が兄の感情を誤認していることだけは間違いがない。
それが響一の思惑なのか、それとも奏一の勘違いなのかは判断が難しい。だから現状を把握して、今後の会話をそつなく展開するために、情報は得ておきたいと思った。
興味と慎重の狭間でそんな質問をすると、タオルの下の奏一がそっと首を傾げる。
「全然ふつーだよ? べったりってほどじゃないけど、逆に喧嘩したこともほとんどないかな。世間一般が想像する双子の距離感とほぼ一緒だと思うけど」
毎日のように連絡を取り合っているわけではない。だが用事があれば連絡する。仕事で顔を合わせることもある。もちろん大層な用事がなくても連絡をすることもあるし、二人で近況報告を兼ねて食事に行くこともある。
大人になった今も、二人はそんな距離感を保っているらしい。