偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「あー……でも……んー……そうだなぁ」
至って普通、と説明した奏一だったが、その後自分の発言を改めて考え直したようだ。あかりが肩を揉むと『あー』だの『うー』だの呻く声と同時に、意外な心情が零れる。
「俺は兄さんを尊敬してるけど」
「……?」
「兄さんはああ見えて結構努力家だからね。勉強もスポーツも習い事も、俺には真似できないぐらい真面目に一途に打ち込む人なんだ」
――どういう意味だろう? 話が急に飛躍した気がする……と感じたが、何か意図があるのかもしれないのでそのまま聞き役に徹する。
「自分が努力する人だから、俺が怠け者だって兄さんはちゃんと見抜いてるんだよねー」
「なまけもの……ですか?」
「そう」
あかりが問い返すと、奏一がそっと頷いた。
彼の言っている意味のほとんどは、あかりにはよくわからない。その部分だけ聞くと奏一が兄に対して何らかの劣等感を抱いているように聞こえてしまう。
(完璧な人に見えるけど……奏一さんも何か悩んでるのかな)
ふとそんな疑問が沸く。響一は確かに強引なところもあるが、人の努力を無碍にする性格ではない。だから相手を――まして双子の弟を見下げるようなことは言わないし、思いもしないだろう。
響一の性格は弟の奏一が一番わかっていると思うが、それでも何か気になる点があるらしい。