偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
あかりがアドバイスをすると、奏一がもう一度『ありがとう』と頷く。そして外していたボタンをしっかりと留め、ネクタイも元のようにきっちりと締める。
後は自宅に帰るだけだと思われるが、彼はいつも身だしなみを整えてやって来て、身だしなみを整えて帰っていく。だらしない姿など見たことがない。まさに完璧な王子様だ。
さわやかな青年が身支度をする様子を眺めていると、奏一が革靴の中に足を入れながら『あ』と小さな声を漏らした。
「ね、あかりちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい? ……なんでしょう?」
「素人でもできる手のマッサージとかストレッチってある?」
奏一が呟いた言葉に、一瞬動きが止まる。けれど彼がにこやかに微笑むと、あかりもほんわりと和やかな気持ちになった。
「ちょっと奥さんにやってあげたくて」
「なるほど。いいですよ、教えますね」
「ほんとー? ありがと」
「奏一さん、奥さんのこと大好きなんですね」
「うん、そーなんだ。まあ、本当はもーっと俺に甘えて欲しいんだけどね」
奏一がごく当たり前のように呟く。
さすが王子様。しかも新婚さん。溺愛ぶりが想像以上だ。満面の笑顔で妻への愛情を示す言葉と態度には、あかりの方が恥ずかしくなってしまう。