偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「え、自分で話題振っておいて照れるの?」
「いえ……なんか、眩しくって……」
響一が言うには、奏一は幼い頃からずっと好いていた人と結婚したらしい。先ほどの話から奏一は兄の結婚をずっと待っていて、響一が結婚したことでようやく自分が結婚できる番になったのだと思われる。順番など気にせず先に結婚しても、入谷家的にはなんの問題もないらしいのに。
そんな念願が叶って結ばれたとあらば、奏一は奥さんが大事で大事でしょうがないだろうし、その相手のために何でもしてあげたいと思うのも当然だろう。
(契約結婚の私たちとは違うもんね……)
奏一の嬉しそうな顔を見るに、彼らは愛し愛されて結ばれた恋愛結婚に違いない。昔からの知り合い同士で結婚したということは、それほど長い時間をかけて愛を育んできたのだろう。口約束だけであっさりと結婚を決めた自分たちとは雲泥の差がある。
(ちょっと、羨ましいな)
あかりは確かに、奏一に憧れていた時期もあった。けれど今のあかりの胸の中にあるのは『奏一に想われている人が羨ましい』という感情ではない。
自分だけを好きになって大切にしてくれる人に――『愛する人に愛されていることが羨ましい』と思ってしまう。
身体の関係はあるが、恋愛感情はない。本人からはっきりと『利害の一致』だと言われているあかりには、どんなに望んでも手に入らない愛の形だ。