偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
6. 立ち退き命令
結婚してしばらくは響一の仕事に関わることがなかったが、最近少しずつあかりの役割が変化してきた。
響一が取引する会社の重役、直接的な取引はないが顔見知りのトップマネジメント、有名な芸能人やスポーツ選手、あかりも聞いたことがあるほど大きな病院のドクター、選挙期間じゃなくてもテレビでよく見る政治家などなど。
時と場合により相手は様々だが、彼らが催すパーティやイベントへの招待を受けたり、一緒にいるときに相手から話しかけられたり、自宅にかかってくる電話を響一に繋いだりと、彼の『妻役』が少しずつ増えてきたように思う。
しかし契約前に『上等な振る舞いを求めるつもりはない』と言われていたにも関わらず、そのどれも不快には思わないし特に負担にもなっていない。きっと響一がさりげなくフォローしてくれたり、事前に根回しをしてくれるからだろう。
そしてそんなフォローや根回し以上に興味深い出来事がある。あかりを妻として他者に紹介するときの、響一の態度だ。
あかりは特に美人なわけでも珍しい職業に就いているわけでもない。だが響一は社交の場に赴けば必ずといっていいほどあかりを自慢したがる。
腰に手を回して身体を引き寄せ、片時も離れたくないとアピールするように『可愛い妻です』と歯が浮くような紹介をする。兎にも角にもそれがおかしくて仕方がない。