偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
そしてその兄ということは、この入谷 響一という人物も立派な入谷家の御曹司様なのだろう。
あかりも奏一の情報は彼との他愛のない雑談から知っているが、響一の個人的な情報は何も知らない。
それでも彼も生粋のセレブリティだと言うのならば、割引券やポイントカードなんて庶民的なものは使ったことはおろか、目にする機会さえないのかもしれない。
だが問題はそこではない。
(あ、危なああぁい……! 危うく施術ミスするとこだったーっ!)
彼が弟に勧められてここに来たことは理解したが、その所為であかりは重大なインシデントを起こすところだったのだ。直前で気付いてよかったとひたすらに思う。
「じゃあ俺は、施術は受けられないのか?」
一人胸を撫でおろしていると、ふと響一の残念そうな声が聞こえた。そこでハッと我に返る。
彼はここにマッサージの施術を受けるつもりで来店し、すでにベッドに横たわっている状態なのだ。
「あ、いえ……今から初回の問診をして、問題がなければ新規のご利用という形で承ります。料金も初回割引で少しお安くなると思いますよ」
「値段は別にどうでもいいんだが」