偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
急な話ではあるが、新規の利用客として彼の施術を受け付けることは可能だ。もちろんリラクセーションサロンの施術では手に追えない症状を抱えていた場合――例えば不調や痛みの原因が骨折や脱臼だったり、どこから出血している場合などは医療行為が必要となる。
その時は整骨院や整形外科に行ってもらうしかないが、見たところ身体に緊急を要する異常を抱えているようには思えない。弟である奏一からすすめられてやって来たということは、恐らく彼と同じく、身体の疲労の改善が目的なのだろう。
「では初回の準備をしますので、少々お待ちくださいね」
それでも適切な施術をするためには詳細な問診が必要となる。細かい部位は施術しながらでもヒアリング出来るが、大まかな症状や部位の確認は最初に確認することとなっている。
それに女性に人気のリラクセーションサロン『mohara』では、施術中に使用する音楽やアロマを選ぶことも出来るので、その好みの聞き取りも初回に行うのだl。
響一に断りを入れてから一旦個室を退出し、受付で事情を説明して初回のカウンセリングに使うシートを準備する。それから元の部屋に戻り、細々とヒアリングをしていくあかりに、ふと響一が不思議そうな声を出した。
「なぁ……お前、なんで俺と奏の違いに気付いたんだ?」
「え……?」