偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「俺は結婚した以上、浮気はしないし他も要らないと言ったはずだ。なのにどうして他の奴と恋愛をする話になる?」
「え、えっと……。……ごめん、なさい」
響一の不愉快そうな言葉を聞いたあかりは、申し訳なさからすぐにパッと俯いた。
確かに多少強引で相手に冷たい印象を与えがちな響一だが、決して人を傷付けたり、裏切ったり、まして浮気をするような人ではない。もちろんそれは分かっているし、響一の発言を疑うような意図はなかった。だがそう取られかねない聞き方をしてしまったのはあかりが悪い。
素直に謝罪して頭を下げると、響一がハァとため息を零した。そして整った顔を少しだけ歪めて、悲しそうな表情であかりをじっと見つめる。
「……何を隠してるんだ?」
「!」
「何かあったのか?」
「……え、……いえ、そういう訳では……」
何かあったのか、と聞かれたら答えはイエスだ。恋愛云々の話の流れには関係がないが、今のあかりは転職活動の真っ最中だ。
普段の仕事といつもの家事を行いながら、再就職先を探すことも並行している。家事の分担は少ないのでさほど負担にはなっていないが、それでも響一に知られないように転職活動をするためには、すべてを『いつも通り』にこなさなければいけない。
そう考えていることを知られたくなくてにこりと微笑み、やり過ごす。