偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 不機嫌、というよりも、単純に不思議で仕方がない――そんな視線を向けられ、あかりもそっと首を傾げる。

「俺とあいつは、顔も声も身長も体重もほぼ一緒だ。喋り方は多少違うとは言われるが、他は親ですら間違えるほどそっくりなんだ。なのにどうして、赤の他人のお前が見分けられる?」
「え、ええっと……」

 響一の疑問に、なんと答えていいのかと迷う。

 もちろん答えは明確にある。だがそれを彼が理解できるように伝える自信がない。

「身体が違うからです」
「……カラダが違う?」
「ええっと……奏一様は僧帽筋上部が張って首や目に不調が出るタイプなんですけど……響一様、は脊柱起立筋と広背筋を中心に、背中全体が凝ってます。筋緊張も高くなってるので、恐らく深層筋もかなり硬くなっててると思うんですが……」
「……何を言ってるか全然わからないんだが」

 ですよね~。

 それはそうだと思う。あかりが触って感じたことをそのまま言葉にしようとすると、専門用語のオンパレードになってしまう。これを一般用語に噛み砕いて説明すると、回りくどくなって余計に伝わらない気がするのだ。

 ならばどうすれば理解してもらえるだろうか、と悩んだが、響一は経緯に対する興味はすぐに失ったらしい。

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