偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

9. 煌めきのキャロル


「わぁ、綺麗……とっても可愛いです!」

 パンフレットを握りしめながら広い会場の絢爛豪華な装いに感嘆の声を上げると、隣で様子を見ていた響一が小さな笑顔を零した。

 彼の表情はあかりも見慣れたいつも通りの微笑みだが、最近心なしか角が取れて柔らかい印象になってきた気がする。というより、何をしていても幸せそうに見えるのはあかりの気のせいだろうか。

「ホテルの名前が『ルビー』だからな。色のイメージがクリスマスカラーと合うからか、この時期限定のフェアは特に人気なんだ。ブライダル部門の気合の入り方もすごい」
「そうなんですね。確かにすごく豪華ですもんね~」

 赤やピンクで彩られたパーティールームと響一の顔を交互に見つめて『なるほど』と頷く。

 だが内心ではちょっとだけ不満に思う。

 響一はあかりの顔を楽しそうに眺めるばかりで、会場の様子は全然見ていない。せっかくのブライダルフェアなのだから、ちゃんと係の人の説明を聞いてちゃんと見て回ればいいのに。彼は壮麗なチャペルにも、パーティ会場の装飾にも、演出体験にも興味を示さず、逆にそれらに興味津々のあかりの姿ばかり熱心に眺めている気がする。

 けれど不満を感じる度に『それもそうか』と思い直す。何故ならここはイリヤホテル東京ルビーグレイス。他でもない響一が総支配人を務めるホテルである。

 建物内外のありとあらゆるところを毎日細かくチェックしているのならば、響一が真新しさや珍しさを感じないのも無理はない。

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