偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
感動するあかりの顔を、響一はまたにこにこと笑顔で見つめる。
会場や費用のシミュレーションと同じく、彼は料理も食べ慣れたものらしい。人に食べてもいい、と言っておいて自分はカトラリーを取る様子はない。ただあかりの姿を眺めることを楽しんでいるような素振りだ。
その視線が恥ずかしくなり、パッと顔を背けてフォークを手に取る。響一の言動を意識しないように努めて、目の前に用意された食事を楽しもう、と決め込む。
「響一さんは食べないんですか?」
「俺は何度も食べてるからいい。それにこの後はディナーだから、今はあまり食べないでおく」
響一の言葉を聞いたあかりは、なんだか申し訳ない気分になってしまう。
ルビーグレイスでクリスマス限定のブライダルフェアがあると聞いて、行きたい! と言ったのはあかりの方だ。もう少し先の話にはなるが、響一も結婚式はするつもりだと言っていた。予定を組んで準備を進める、という宣言は、彼が自分の親やあかりの親に結婚の報告する際にもちゃんと目にして耳にしていた。
その場所は間違いなく、響一が総支配人を務めるここ『イリヤホテル東京ルビーグレイス』になるだろう。
だからその時のために、いつか下見をしたいと思っていた。もちろん今すぐじゃなくても良かったが、響一にクリスマス限定のプランや、参加者には限定のジンジャークッキーのプチギフトがもらえると聞いて、参加したいと願ったのだ。