偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「俺と奏をカラダで見分ける女は初めてだ」
「ちょっと待って下さい、なんか言い方おかしいです!」
響一の言葉が妙に引っかかる。たしかにその通りだが、なんとなくいやらしい響きを含んでいるように聞こえてしまう。
「いてててて……!」
その所為で力が入りすぎてしまったらしく、タオルの下からは悲痛な声が聞こえてきた。
「おい、力入れすぎだろ……?」
「そこまで入れてませんよ。筋肉が凝り固まって柔軟性が低下してるので、押すと筋が伸長されて痛いんです」
指摘を受けたあかりは慌てて手の力を抜くが、彼の言葉に動揺したわけではないと主張したくてそれっぽい言い訳を捲し立てる。
「すごく硬いです。もし二回目以降もいらっしゃるようでしたら、次は少し温めましょう。筋肉は温めた方が緊張が緩和するので、施術もスムーズになると思いますよ」
「へー……カラダは温めた方がイイのか」
響一が首だけで振り返ってこちらをじっと見つめてくる。その声と瞳の奥に怪しい色が宿っていることに気付き、あかりは照れて視線を下げた。
「ですから、言い方がおかしいです!」
頬を膨らませながらぷいっと視線を背ける。その表情までしっかり確認して意地悪に笑う響一の声が、白いタオルの下から静かに聞こえてきた。