偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
しかし響一は『何か問題があるか?』と首を傾げるばかり。必要なアメニティはすべて用意されているし、どうしても足りない物はホテル内のショップや敷地を出てすぐのコンビニでも調達できる。室内に小さなランドリーもあるので何も問題はないだろう、と言われれば確かにその通り。
反論の隙を与えてくれない響一に、あかりはほうっと息を吐く。
口数が少なくクールな印象を受ける響一だが、彼には強引というか、少し『俺様』な部分がある。あかりの意見を聞く前に大事なことを決めてしまって、しかもそれをその時まで教えてくれない。堂々としていて強い意思を持つ行動力には恐れ入るが、あかりとしては少し驚いてしまう。
もちろん嫌な訳ではない。何故ならこれは彼なりのクリスマスプレゼントだろうから。あかりが以前話した『イリヤホテルに憧れている』という話を覚えていて用意してくれたに違いないから。
響一の計画は大成功だ。
クリスマスイブにイリヤホテル東京ルビーグレイスのプラチナスイートルームに宿泊するだなんて、庶民中の庶民のあかりには夢のまた夢のはずだった。こんなサプライズは想像もしていなかった。
響一はそんな最高の贅沢を用意してくれた。だからサプライズプレゼントは大成功だけれど。
「響一さん、職権乱用では……」
「ん?」
「だってクリスマスイブですもん……。このお部屋、人気ですよね?」