偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 疑問の声を発すると、あかりの顎の下をゆるゆると撫でていた響一がふわりと笑う。そんなことを心配してたのか、と微笑んでくれる。

「まあ、そうだな。人気には人気なんだが」

 響一があかりの言葉を肯定する。だから『やっぱり』と思ってしまう。

 あかりは田舎生まれの田舎育ちで生粋の一般庶民なので、基本的に響一のようなセレブとは金銭感覚が異なる。一泊数数万から数十万円単位の部屋に無理をして宿泊しようとは思わない。

 だが金銭的に余裕がある人なら、このだだっ広くて豪華な部屋に泊まりたがる気がする。

 三つの部屋が隣接し、寝室に用意されたベッドはキングサイズ、応接テーブルや調度品には高級感が漂っていて、リビングルームのディスプレイはちょっとしたシアターのスクリーンを彷彿とさせる。大理石調のバスルームやパウダールームも美しく磨き上げられ、そのすべての部屋から都心の夜景を眺められるのだ。

「毎年クリスマスや年末の時期は、かなり前から部屋を押さえられるんだが」

 宿泊したがるセレブリティはさぞ多いだろうと思った瞬間に響一がそんなことを呟くので、再び『やっぱり』と思う。

 そんな人気の部屋を、総支配人という立場を利用して確保するのはどうなのか。ホテルの利益にもならないし、職権乱用だと噂が立てばイリヤホテルグループ全体のクリーンなイメージを損なう気がする。

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