偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
そう思うあかりだったが、その後に続いた響一の言葉はあかりには想像も出来ないような世界の話だった。
「予約しても実際は泊まらない客も多い」
「えっ? な、なんでですか?」
「客は政治家や芸能人ばかりなんだ。ああいう人達はホテルを予約したらその情報をわざとに裏から流して、さもそこに宿泊してるように偽装するんだろうな。クリスマスやバレンタインは特に多いぞ」
「……は? ふええええ……?」
「そうやってパパラッチの目を欺くんだろう。その間に自分たちは気付かれにくいホテルとか……意外と自宅で過ごしてる人も多いと聞くが」
響一の説明に頭を抱えてしまう。自分の想像力がいかに庶民的なのかを思い知る。
政治家や芸能人が共に過ごす相手というのは、おそらく一般には公表されていない間柄の人なのだろう。だからメディアや報道の目を欺くために私財を投じて偽りの情報を作り、その裏で自分たちのプライベートを確保する。イリヤホテルはその舞台に使われているというわけだ。
「直前にキャンセルの連絡が来ることもあるし、金だけ払って泊まらないこともあるな」
「お金もったいない!」
とはいえイリヤホテルにとっては大きな痛手にはならないのだろう。直前でキャンセルがあれば規定のキャンセル料が支払われるし、実際には泊まらなくても宿泊料はしっかりと支払われるのだから。