偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
もちろんホテルとしては万端のサービスで客をおもてなしするだろうし、その機会を失うことを残念に思うスタッフもいるかもしれない。あかりには何となく、響一も『直前のキャンセルや未宿泊を残念に思う人』に思えたが、表面上の態度は何も変わらない。だからあかりも、それ以上この話題は掘り下げないことにした。
「この部屋はそのうちの一つ。夕方ちゃんとキャンセルの連絡が来たから、あかりは気にしなくていい」
それより今は自分たちの話だ。イリヤホテルのスイートルームなら直前だとしてもキャンセル待ちをしてる人もいそうなので、結局は職権乱用なのではないかと思ってしまう。
それでも響一はあかりに『気にしなくていい』という。いや『他に気にするべきことがある』と言いたいのかもしれない。
「あかり……」
「……ん」
ソファに押し倒されたままの状態で響一の説明を聞いていたが、気が付けば響一は真剣な顔をしてあかりの頬を撫でていた。じっと見つめ合い、どちらからともなく瞳を閉じるとそのまま長いキスをする。
「ん、んぅ、……ん」
息継ぎの暇も与えられないほどの深い口付けを交わす。舌を絡めとるようにやわらかい部分をすり合わせると、ちゅく、ちゅ、と水に濡れる音が零れる。