偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
「きょう……っ、ん」
少し開いた唇の隙間から彼の名前を呼ぼうとした。けれど油断すると深い場所まで舌を挿し込まれ、全てを味わい尽くされているようなみだらなキスを重ねられる。
息苦しさと胸の高鳴りで脳が甘く痺れる。感覚と思考を失うように与えられる刺激の波に溺れていく。飲み込まれていく。
響一の手があかりのワンピースの中へ侵入してくると、さすがに少し焦った。驚きから彼の肩に両手を乗せてぐっと力を込めると、唇が離れて少し驚いたような顔をされる。
「お風呂、入ってきてください……」
「……ああ、汗くさいか」
「いえ、匂いじゃなくて……。響一さん、疲れてるでしょう? 眠ってしまったら、お風呂に入り損ねますよ?」
あかりは響一をくさいと思ったことは一度もない。それどころか一日中走り回って汗をかいたと思われる日でも、近付けばいい匂いがすると思ってしまう。彼の身体の匂いと香水が混ざった匂いに思いきり抱きしめられたいとさえ思ってしまう。
だからあかりが響一に入浴を勧める理由は匂いの問題ではない。このまま深く交わってしまった場合の、その後の問題だ。一日ぐらい入浴しなくても不都合はないが、響一はいつも背中が張るほど疲れている。
だから少しでもリラックスして欲しい。ゆっくりお風呂に入って、少しでも身体を温めて欲しいと思うのが妻の優しさだ。