偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
2. 弟の方でお願いします
「あはは。あかりん、すっかり遅くなっちゃったわねぇ」
響一への施術が終わり、彼を送り出してからスタッフルームへ戻ると、店長の美奈がからからと笑った。その能天気な表情を見た途端に緊張の糸が切れて、スタッフが使うためのソファにぼすっと座り込んで叫んでしまう。
「もおおぉ、ほんとですよおおぉ……!」
「いやぁ、入谷御曹司に双子の兄がいたなんて、驚きですよねぇ」
あかりと美奈のやりとりを聞いていた受付担当のサキも、同じく可笑しそうに笑う。
ヒアリングシートに記入してもらった内容をデータ化したサキは、そのついでに彼らの情報を照合してくれていたらしい。マウスを動かす彼女に二人の生年月日と血液型が同じであると告げられ、響一と奏一の関係がやはり『双子』であると理解する。
二人の姿はクローン人間かドッペルゲンガーのようにそっくりだった。おそらく一卵性双生児なのだろう。
「サキさんも気付かなかったですよね?」
「ぜーんぜん。あの顔であのカード持って来られて、別人だって気付く方が無理のある話よ」
「そうですよね……」
「あかりん、よく気付いたじゃない。えらいわよ~」
美奈がマグカップにインスタントコーヒーを注いでくれたので、それを受け取りながら乾いた笑いを零す。