偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 そんな気遣いに気付いたのか、響一が渋々といった顔で身体を起こす。どうやらキスの続きは一旦中断して、あかりの提案を受け入れてくれる気になったらしい。

 身体を離して立ち上がり、ジャケットを脱いでソファの背もたれにかける。さらにルビーのピンを外してネクタイを抜き取ると、カフスボタンと時計も外してアクセサリーボックスの中へ置く。

 あかりも身体を起こしてソファに座ったが、キスの余韻が残る身体では響一が衣服や装飾品を外す様子を眺めるだけで精いっぱいだ。

 ふとその様子に気付いた響一と目が合うと、彼がにやりと意地悪な笑みを浮かべる。

「一緒に入るか?」
「は、入りません!」
「照れなくてもいいだろ」
「照れてません!」

 響一がまたあかりのことをからかい始める。だからその一つ一つを丁寧に否定していく。きっと照れた顔は赤く火照っているけれど、響一の反応を意識しないようにそっぽを向く。

 その様子にまた少しだけ笑った響一は、

「じゃあ先に入ってくる」

 と言い残し、あかりの頬に唇を寄せるとそのままバスルーム消えて行った。流れるようなキスに照れてしまったあかりは、返事をすることも出来ない。

 最近の響一の愛情表現は以前とは比べ物にならないほど熱烈だ。それまではただの契約結婚だと思っていたのに、あかりを大切な存在だと宣言してからは何かのたがが外れたような豹変ぶりである。

< 90 / 108 >

この作品をシェア

pagetop