偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない
整体やリラクセーションと、エステやトリートメントは目的も方法も異なるサービスだ。しかも個人店ではなくホテル内サービスということは、それ一つがホテル全体の評価や満足度に直接影響することも意味している。
違いはわかってる。一筋縄ではいかないことも、簡単なことではないこともわかってはいるけれど。
「あかり?」
響一に声を掛けられ、ハッと我に返る。後ろを振り返って『はい』と返事をしたあかりだが、顔を上げた拍子に直前まで考えていたことがすべて吹き飛んだ。近付いて来る響一の姿を認めるとそのまま後退してしまいそうになる。
(う……バスローブだと色気がすごい……)
我が夫ながら目のやり場に困ってしまう。
弟の奏一と異なり、響一は仕事が早く終わった日はスポーツジムに通うことも多い。響一があかりの働くmoharaにやって来たのも、結局、最初に出会った一回だけだった。
その分身体を鍛えているからか、響一は細身ながらもほど良く筋肉がついている。引き締まった胸板がバスローブの隙間から覗くと、その奥まで何度も目にしたことがあるはずなのに動揺してあわあわと狼狽してしまう。
「風呂入らないのか?」
「は、入ります!」
挙動不審になっていると響一が自ら助け舟を出してくれたので、あかりは遠慮なくそこに掴まる。夫の色気に当てられたのか、バスルームへ向かう足取りはぎくしゃくとぎこちなかった。