偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

11. スイートエンゲージ


「響一さんが髪を乾かしてくれるのも贅沢……」

 温かい風を浴びながら手櫛で髪を梳かれ、少し強めに頭を撫でられるとふわふわ心地よくなってしまう。そのまま眠ってしまいそうなほどに気持ちいいと思ってしまう。

「?」

 まどろむように呟いたあかりの独り言は、ごおおぉ、という風音に紛れてしっかりとは聞こえなかったのだろう。鏡の中の響一がドライヤーを手にしたまま不思議そうに首を傾げる。けれど今は何を言ってもどうせ聞こえないだろうと思い、あかりはそっと微笑むだけで彼の疑問をやり過ごした。

 カチ、という音を最後に風が止むと、今度はヘアブラシで髪を撫でられる。アメニティのシャンプーは高級コスメブランドとイリヤホテルグループの共同開発品で、ふんわりと香る花の匂いが素晴らしい。それに市場に出回らないのがもったいないと思うほど、乾かし終えた髪はつやつやとなめらかで櫛通りも抜群だった。

 あかりの髪を乾かしたいと言い出した響一も、仕上がった髪のなめらかさには満足したらしい。最初は心地よさそうにしている姿を見つめるだけだったが、そのうちそれだけでは物足りなくなったようだ。

 身体を抱き上げられるとドレッサーの前からベッドへ移動する。あかりの身体をシーツの上に降ろすと、髪や頭を撫でてさらさらの指通りを確認し始める。あかりもその大きな手に包み込まれる時間が心地よかった。

「そういえばどうだった、ブライダルフェア」
「よかったですよ。会場は広くて綺麗でおしゃれだし、食器やテーブルも華やかだし、花もたくさん飾ってて……」

 響一の質問に、先ほど見聞きしたブライダルフェアの様子を思い出す。

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