偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

 否、ここ最近は響一の愛情表現に驚くばかりで、プロポーズの有無など頭になかった。それほどまでに満ち足りた日々を送っているからか、そもそもプロポーズをされていないことすら認識していなかった。

「返事は?」

 だから改めて言葉にされるとは思ってもいなかった。二人は婚姻届けを提出して、すでに夫婦として半年ほど一緒に過ごしている。だから改めて結婚を申し込まれるとは夢にも思っていなかった。

 けれど嬉しくないはずがない。響一の言葉に感激してしまうのも無理はない。驚きと喜びで涙が溢れてきてしまうのも仕方がない。

「はい。……っ、よろしくお願いします」

 あかりがそっと顎を引くと、響一がふっと笑顔を見せる。そのまま触れるだけの小さなキスをする。

 どうやら響一もプロポーズに緊張していたらしく、力を抜いて微笑む様子にあかりもつられて安堵してしまう。

「本当は食事のときに渡すつもりだったんだ」

 指輪のことだろう。しかし『渡すつもりだった』ということは、理由があって渡せなかったということだ。何か事情があったのだろうか、と首を横に傾けると、その表情を見た響一が苦笑する。

「でもあかりがあれも美味しい、これも好きって食べ飲みする姿を眺めてたら、忘れてた」
「……え、忘れてたんですか?」
「忘れたというか、食べてる顔が幸せそうだったから後でいいかって気分になった」

 さきほどの様子を思い出したのか、響一が小さな笑顔のまま自分の言葉に頷く。

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