ラヴシークレットルーム ~日詠医師の溺愛クリスマスイヴは・・・



『と言っても、思い浮かばない・・・コレだというものが。』


人が殆どいないことをいいことにネクタイを緩めながら駅の改札を抜け、自宅マンションの近くにある商店街を歩いた。

その途中。
幼い頃からよく通っていた鬼まんじゅうの店の前でつい立ち止ってしまった。

終電の1本手前の電車に乗って帰って来たという遅い時間。
さすがに店のシャッターは閉められていた。


そういえば、ここの鬼まんじゅうを買って帰った夜。

俺がシャワーを浴びている浴室に伶菜が飛び込んできただけでなく、その後、欲望をコントロールできないまま伶菜を抱きそうになるのを避けるために病院に向かってしまった俺が奥野さんにキスされたという・・・衝撃的かつ部分的に想い出したくない夜だった。

そんなことがあったものだから、あれから暫くはなんとなくこの店から足が遠のいたままだ。
鬼まんじゅうは何ひとつ悪くないのだが。


『いろいろ考えるとこのまま、ど壷(どつぼ)にはまる。また改めて考えるか。』


俺は所々色褪せ、薄っぺらくなっているこの店の布製サンシェードを見上げ、再び自宅に向かって歩き始めた。

高層ビルが増えた名古屋中心街とは対照的に同じ名古屋市内でも古くからの民家が集う町並みが今も部分的に残る自宅近くの笠寺という地域。

ここで育った俺は、今もあまり変わらない、星がちゃんと輝いて見えるこの空を眺めながら自宅マンションまで歩いた。



『さすがに今日はもう寝てるよな・・・』


いつも通りリビングに灯りが燈されている我が家が見えた。
ここは家族という存在がある幸せを改めて感じる場所だ。


そこへ向かって俺は更に歩を進める。
そして、エレベーターで自宅の部屋がある階まで上がり、夜遅いため、なるべく足音を立てないように気を遣いながら玄関まで歩いた。

眠っているはずの子供達を起こさないようにと
鍵を開ける音、ドアを引く手にも気を遣いながら入った玄関。



『ただいま・・・・』




ガタッ!!!!


どうした?



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