ラヴシークレットルーム ~日詠医師の溺愛クリスマスイヴは・・・
「ねえ、ママ~。パパのびょういん、行くの?」
『・・・・・・うん、そう。』
「パパ、あそんでくれるのかな?」
『・・・・・・・・・・・』
見事に状況を把握していない祐希が嬉しそうに話しかけてくれているのに、私は上の空状態。
秘書の片平さんから自宅に電話があるなんて
いいことなんて思い浮かばないよ
勝手に思い浮かんでくるのは
以前、ナオフミさんが打ち明けてくれたお父さんの話
『・・・・・おとう、、さん・・・』
ナオフミさんが現在、従事している病院で
彼と同じ産婦人科医師として働いていたらしいお父さん
その頃、今のナオフミさんのように多忙な日々を送っていた彼
当時まだ、私の兄として一緒に育てられていた小学生のナオフミさんがお父さんに会いたいばかりに学校帰りによく病院へ出向いていたそうだ
そんなある日
ナオフミさんはいつものように学校からランドセルを背負ったままお父さんがいるはずの病院の屋上に向かった
お父さんの姿を見つけ、声をかけようとした瞬間
お父さんはナオフミさんの目の前で倒れたらしい
ナオフミさんが病院職員に助けを求め、すぐさま心肺蘇生を行ったけれど・・・・・お父さんは蘇生することなくその場で息と引き取ったそう
まだ幼かったナオフミさんの目の前で・・・・
その事をナオフミさんがポツリポツリと呟くように話してくれた時、つい聴いてしまったことがある
“そんな辛い場面に遭遇したのに、なぜ産科医師を志したのか?って”
父の急死の現場に居合わせてしまったことは
彼にとって心の傷の1つでもあるはず
それを掘り起こすような真似をしてしまったあたし
臨床心理の仕事モードになっている時は
そんな真似なんかしないのに
その時、すぐさま“ゴメンなさい、今のなしで・・・”と謝ったあたしに、ナオフミさんは笑って返答してくれた
“親父が凄くカッコよく見えたから・・・”と
そう答えてくれた彼の横顔から
お父さんという存在に本当に憧れていたんだと感じた。
その憧れの存在を追いかけるために、日々、努力を携えながら走り続けるナオフミさん
私はその姿に尊敬すると共に・・・不安を抱いたりもする
『本当に大丈夫・・・・かな・・・?』
お父さんという存在を追いかけることに夢中なナオフミさんが
お父さんと同じような運命を辿ってしまわないかと・・・・
普段はそんなことを考えないのに
こうやって緊急で病院から呼び出しされると
それを考えずにはいられない
『・・・どうしたんだろう?』
そんな私の視界に飛び込んできたのは大きくて見慣れた病院の建物。
駐車場の空き待ちの車で長蛇の列になっているすぐ横を通り過ぎたのに、病院玄関前にある信号機が赤のせいでそこで足踏みすることに。
この赤信号がこんなにも長い時間に思えたことなんてないぐらい私は焦りを感じていた。