ラヴシークレットルーム ~日詠医師の溺愛クリスマスイヴは・・・



「ありがとうございました。1970円です。」

『あの、コレで。急いでいるのでお釣りはいらないです。』

「そうですか!!!じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございました。」

『こちらこそ。祐希、陽菜、着いたから降りようね。』



いつもは感謝の気持ちを込めてタクシーを乗った時に運転手さんに渡している飴。
この時はそれを渡す余裕もなかった。



「どこへ行けば・・・・・産科病棟?外来?手術室?検査室?どこどこどこに?!行けば」

『伶菜さん、すみません!!!!!』



バタバタとタクシーから病院玄関へ降り立った私達にかけられた女性の声。



「かっ・・片平さん!!!!」

「お荷物、お持ちします!こっちです。」


優雅に廊下を歩いている姿しか見たことがない片平さんが
私のトートバックを肩に下げて、ハイヒールを履いた足で早歩きをし始めた。

その姿にも焦りを感じさせられながら、陽菜を抱っこした格好の私も祐希の手を引き、必死に彼女の後をついて行った。


病院玄関から入って総合受付を抜け、病棟のある建物のほうへ導かれる私達親子。


「ママ、あっちじゃないの?」

『えっ?!』

日曜日の昼休み時間帯にナオフミさんに会いに来ることが多い祐希が通り過ぎた屋上に向かう階段のほうに振り返って指を差した。


『あっ、とりあえず・・・・・お姉さんについて行こ!!!!』

「え~あっちだよ~」

『いいからっ!!!!!』


完全に立ち止まっていた祐希の手を引き、振り返って私達の様子を窺っていた片平さんに“すみません”と会釈しながら、再び前を向いた彼女の後を追った。


そして前を歩き私達を案内してくれていた彼女が

「こちらのエレベーターに乗りましょう。」

業務用エレベーターに乗り、開くボタンを押しながら“どうぞ”と私達を招き入れた。



私達が乗ったことを確認しながら押した階数ボタンは“8”。
8階はここの職員である私でも殆ど足を踏み入れたことがない場所。



そこは特別個室専用の病棟
スポーツ選手や政治家、時には芸能人などが利用するいわゆるVIP専用病棟
彼らが極秘で入院するため、診療に関わる者しか入れない職員にとっても敷居が高い場所。
どうやらそこへ案内されるらしい



VIP
極秘

しかも、片平さんには電話で“日詠先生が・・”って呼ばれた

さっきこっちに向かってくる時にお父さんの最期のことが頭を過ぎったのは
同じようなことがナオフミさんに起こっているという胸騒ぎだったの・・・・?





「こちらの奥の部屋です。」

片平さんによって差し示された特別個室専用病棟の廊下を曲がった奥の個室らしき場所。



そこからこちらへ向かってきたのは


「伶菜ちゃん・・・・・」

険しい面持ちをした看護師用の白衣姿の福本さんだった。



『福本さん・・・』

「ごめんなさい。こんなことになって。」



こんなことになって・・って
どういうことなの?

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