#青春リクエスション
ずしんと重くのしかかっていた暗闇も今やぐちゃぐちゃに掻き混ざっていた。


それでも苦しいのは変わらなかった。


「由夢、大丈夫?」

「凛空ちゃん…」

立ち止まった階段の下、凛空ちゃんが追っかけて来た。

「どうした?」

そーいえば、前もこの階段だったな。
バレンタインの日、私が暁先輩にチョコレートを渡せずに落ち込んでいた時…あの時もここだった。

「凛空ちゃん…っ」

あの時は必死に我慢していたのに、もう溢れて止まらなかった。

ポロポロと零れ落ちる、次から次へと頬を伝う。


冷たい涙が。


「…ずっと楽しかったの、暁先輩と出会って、青春リクエスションと出会って、ずっと楽しかったはずなの」

色づき始めた日常が、今までにない気持ちを教えてくれて、どれも輝いて見えた。

「でもね、…今はしんどい気持ちばっかりで全然笑えない」

なのに色を失った日常はこんなにも息苦しくて。


あれは八つ当たりだった。

「きっと花絵先輩だったら暁先輩は必死に笑わせようとしてくれるのに、でも私は何もしてもらえない。それが悔しくて悲しくてしょーがない…っ」

告白まがいの出来事に笑う暁先輩にも、それに苛立ちながらも何でも言える花絵先輩にも…

何でも言えるのに…


あんなに暁先輩は花絵先輩を想ってるのに、どうして笑ってあげないの?


全部全部花絵先輩のためなのに。

なんでわかってあげられないの…


私だけ黒く濁った渦の中に取り残されたみたいで抜け出したくてぶつけてしまった。


声が詰まる。

嗚咽が漏れる。

涙が止まらない。


私だったら…
だけど、私じゃないんだ。

私じゃどうにもならない。


「誰かを好きになるなんてそんなもんだよ」

まろやかな凛空ちゃんの声がこもる。

「誰だって好きな人には好かれたいし、好きな人に好きな人がいたら…何が何でも振り向いてほしいって思うよ。みんなそうだよ」

寂しげに呟いた。

「…俺も思ってるもん」

そういえば、凛空ちゃんも想ってる人がいるんだっけ。ちゃんと聞いたことなかったけど、凛空ちゃんはどんな恋をしてるんだろう。でもその言い方は私とおんなじ…

「その子にも…好きな人がいるの?」

寂しそうに笑った。

そんなの凛空ちゃんらしくなくて、私まで寂しくなった。

「うん、めちゃくちゃ。だからすっげぇ悔しい」

笑ってるのに笑ってないみたい。それほど凛空ちゃんもつらい思いをしてるのかもしれない。

「俺だったら笑わせてあげるのにって」

「……え?」

凛々しく柔らかな瞳で私を見た。

「由夢は暁会長に笑っててほしくないの?」
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