#青春リクエスション
今日は少しだけ早起きをした。

早く学校へ行きたかったから。


深呼吸をする。

大きく息を吸って、吐いて。

大きく鳴る心臓の音を聞きながら。

ハート型のピンクのお守りを握りしめて。


生徒会室へ続く階段、そこで待っていた。


たぶんそろそろ来る時間…

やばい、緊張して来たな…

もう一度息を大きく吸おうと思った。

「由夢ちゃん」

「暁先輩!…おはようございますっ」

「おはよう」

まだ静かな学校に、暁先輩がやって来た。

「もう風邪は大丈夫ですか?」

「うん、もう平気。ごめんね、昨日は休んじゃって」

「いいえ、全然気にしないでください!」

しんっとなる校舎に、微かに風が通る。この時期の気温差は激しくて、春の朝はひやっとした風が吹く。

「…今日はすみません、朝から呼び出しちゃって」

「ううん、全然いいけど…どうしたの?」

「あの…、暁先輩に聞いてほしいことがあって…」

暁先輩の生徒会長就任あいさつを聞いた時、暁先輩とデートした時、生徒会室のドアを開けた時、今でも鮮明に覚えてる。


私の高校生活が彩られていった。


それだけじゃない、みんなでした謎解きもバレンタインも暁先輩が弾いていたピアノも…


全部全部この先きっと忘れない。


「私学校が大好きです!」


最初は胡散臭いなって思ってた。

こんな過疎アプリで何してるんだろうって、怪しいなって思ってた。

でも一歩そっちの世界に足を踏み込んだら、その瞬間経験したことのない気持ちで溢れてた。

毎日が楽しみで、期待に思いを寄せて、くだらないことであんなに笑って。



普通に過ごしてるだけだった、
私の高校生活は何百倍も光り輝いた。



あのワクワクとドキドキは何度だって思い出す、昨日のことのように。


「それは全部、青春リクエスションのおかげです」


“…軽蔑した?”


全然そんなこと思いません。

だって、みんないっぱい笑ってたから。

「たくさんの人を笑顔に出来る暁先輩はすっごくカッコいいです。暁先輩だからみんな集まって来たんですよ、…やっぱりすごいです!」

ほら、私だって今…


ちゃんと笑ってる。


「…ありがとう」

だから最後に聞いてもらえますか?

私にも答えてくれますか?


「暁先輩、付き合ってください」


「……、え…」

「暁先輩そこはそうじゃないです、困った顔で口ごもらないでください」

「え、ごめ…っ。あの…」


「“どこに行くの?”です!」


「…由夢ちゃん」

いつもみたいに微笑んでください。

そしたら私もちゃんと返しますから。


「…“どこに行くの?”」


1番の笑顔で。


「生徒会まで!」


足を上げて階段を上る、隣で暁先輩も一緒に。

「ありがとう、由夢ちゃん」


“好きな子の笑顔が見たくて”


それが私のためだったらよかったのに。

でもそう思ってる私だって暁先輩と変わらないよ。

だた好きなだけ。


私が暁先輩のことが好きなように、暁先輩が花絵先輩を好きなだけ。



好きです、暁先輩。



暁先輩のことが好きです。





「暁先輩、私もう一度叶えてほしいリクエストがあります。叶えてもらえますか?」
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