#青春リクエスション
寧々への扱いは日々エスカレートしていった。

クラスでも距離を置かれるようになり、それが次第にハブられるようになり、目立つ存在になっていった。

「寧々、お昼食べよ!」

「私今日お弁当忘れちゃって、購買行ってくるから」

「じゃあ私も一緒に行くよ!」

購買は階段を下りた1階にある、財布を持って教室を出た。

お昼休みのこの時間の購買はあたりまえだけど人がいっぱいで、広く取られたスペースもぎゅうぎゅうになる。その中に負けない心で挑まないと欲しいものは買えない…んだけど。

「あれ1年の近澤じゃない?」

「あ、あの子が?大会なくせって言う?」

「そうそう、可愛い顔して性格あれだね」

寧々が通ればみんなが振り返る。

Speaksを見てる人だけじゃない、もうすでに独り立ちした噂は学校中で騒がれていた。

「私、先に自販機行ってくるわ」

「あ、じゃあ私も!」

自販機の方に歩き出す寧々の後ろを駆け足で追っかけた。
早足に歩く寧々は全然こっちを見ない。

「寧々…」

「近澤ちゃん!」

その後ろでさらに凛空ちゃんが追っかけて来た。両腕に抱えるほどの大量のパンやらおにぎりやらを持って走って来る。

「俺いっぱい買いすぎちゃったから、近澤ちゃんいる?えっと、カレーパンとチョコデニッシュとクリームパンと鮭おにぎりもあるし、オムライスおにぎりもあるよ!何がいい?あ、由夢もいる!?」

はぁはぁと息を切らしながら一気に早口で言った後、んっと差し出した。

「有末くん…」

「寧々はクリームパン一筋だよね!いつもクリームパンだもんね!」

「そうなの?じゃあこれっ」

凛空ちゃんがクリームパンを手渡そうと、寧々も手を伸ばした時だった。

こそっと後ろから声が聞こえた。


「うわ、男に媚びてるっ」


ピタッと寧々の手が止まった。

「新体操部入ったのも色気で男釣ろうとしたとかじゃないの?」

「うわー、男目当て?最悪ー」

その声の先に私が一番最初に振り返った。


知らない人だった。


知らない人だったけど、キッと睨みつけて文句の一つや二つ言ってやろうと思った。

「由夢!」

なのにぐいっと腕を引っ張られ止められてしまった、寧々に。

「いいってば。ほかっときなよ、あんな奴ら」

「よくないよ!全然よくない!」

“知らない人”たちはふんっと息を吐き捨て、どこかへ行ってしまった。

まるで私たちが悪いみたいじゃん!そんなの絶対おかしい!

「どうして何も言わないの!?」

「言っても変わらないでしょ。有末くんもごめんね、ありがとう」

「いや、俺の方こそ…余計なことしたっていうか」

凛空ちゃんがくれると言ったクリームパンも寧々は断っていた。

なんで?どうして?寧々は平気なの?

「…悔しくないの?あんな勝手なこと言われて寧々は悔しくないの?」

「悔しいよっ!!!」

寧々の声が廊下に響く。

「でも私は…っ、そんなことより大会に出られないことの方が悔しい。だから絶対、絶対来年も出てやるんだからっ」

「…寧々」

吐き出された寧々の気持ち。

寧々は私を応援してくれたのに、絶対今傷付いてるのに、どうして私は何もできないんだろう。

何をしてあげられるんだろう。


どうしたらいいの…?
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