#青春リクエスション
ドアを開けると一斉にみんながこっちを見た。

「来たよ、張本人」

「?」

馬渕先輩が暁先輩にスマホを見せた。

「想像以上に反響あるぞ」

スマホを見る暁先輩の隣で一緒に覗き込んだ。

「あ、すごっ」

思わず声が出ちゃった。

生徒専用SNSアプリ“Speaks”がこんなに活性化されてるの初めて見たかもしれない。見ているこの間もつらつらと呟きが更新されていく。

それもすべて暁先輩へのもの。

「ピアノ最高だった、もう一回聞きたい、カッコよかった、朝のアラームにしたい…」

馬渕先輩が読み上げていく。
昨日の新入生歓迎会で披露したピアノの感想の数々、あの数分でこんなにも多くの人を虜にしていた。私だってきっとあの場にいた新入生だったら正気の沙汰じゃない。

「さらにそれは派生して…」


“暁会長、付き合ってください#青春リクエスション”


「!?」

誰かを特定してはいけないというルールガン無視で告白リクエストが山のように来ていた。

「人が増えれば増えるほど秩序が乱れる例その2」

やたらピシッと決めた馬渕先輩が気になったけど、それはそうとSpeaks…増えればいいってわけじゃない。増やすためにピアノだって花吹雪だってやったのに、寧々の時といい常に問題が付いてくる。

「会長モテモテっすよ、ずーーーっとこんなリクエストが続いてます!」

「え~、それは困っちゃうなぁ♡」

全然困ってなさそう。むしろ楽しそう。両手を頬にあててぶりっ子ポーズでふふふっと笑ってる。

花絵先輩がいつになく嫌悪感に満ちた顔をしていた。眉の間に出来た数本のしわに歪んだ唇、冷ややかな瞳… なんてゆーか単純に花絵先輩が笑わない理由は暁先輩のそーゆうとこでは?

「これどーすんだよ」

「どうしよっか~」

馬渕先輩の問いかけに全然どうする気もなさそう。

「1人がやり始めたらもう1人って、どんどん来てるぞ」

「今来てるリクエスト、ほぼこれっすからね」

凛空ちゃんもスマホをスクロールしてるのを見て、私も自分のスマホを開いた。

ほんとだ、いっぱい来てる。
画面いっぱい暁先輩の名前しか見えない。

「みんなの願い、俺は叶えてあげたいけどね♡」

「ペテン師」

へらっと笑う暁先輩に、花絵先輩がぼそっと呟いた。滲み出ちゃってる、不快感。

「今までも全部のリクエスト答えてるわけじゃねぇから、これもスルーでいい?とりあえず」

「そうね心平の言う通り、このままでいいんじゃない?特に被害はないし」

「俺は例外で叶えてあげてもいいよ♡」

「暁は黙ってて!」

…みんなが青春リクエスションの活動方針について心配してる中、私はそれよりも気になっていた。

このリクエストの量、ノリは雰囲気で呟いたとしても多い。

シンプルに多い。


ライバル多い…っ!!!


「もうホームルーム始まっちゃうわよ」

「あ、やばっ!明日から始まる春のあいさつ運動の話しようと思ってたのに!」

「暁が余計な問題連れて来るから」

「モテる男はつらいよね」

「…ペテン師」

でも花絵先輩に勝てる人はいないんだ。

どれだけライバルがいようと、誰も花絵先輩には勝てない。

だってライバルだなんて、おこがましい。
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