#青春リクエスション
重い腰を上げて生徒会へ向かう。
北校舎の最上階4階の左奥の教室、なんでこう生徒会って遠いんだろうな… そんなこと思ったことなかったけど。
いつもはやる気持ちのが大きかったから。
「…あ」
生徒会の前の廊下、暁先輩と1人の女の子が話していた。静かな廊下に声が響いてる。
しまった、変な時に来ちゃったかも。
「暁会長、付き合ってください♡」
「どこに?何をするの?」
語尾に感じた♡マークに嫌な予感がする。
やばい、どうしよ。
ここで聞いてるのもなんだか…
そう思って、咄嗟にその場を離れようと思った。
「今週の土曜日!付き合ってもらえませんか?」
………え?
だけど、離れられなくなった。
その答えが気になって。
「んー、土曜日かぁ。どうだったかなぁ」
暁先輩が腕を組んで、右手を顎の下に当てた。人の話に聞き耳立ててるなんて趣味悪いと思ったけどじぃっと見てしまった。
それは…
さすがに行かないよね?
だってそれは…
「考えとくよ」
たぶん暁先輩は微笑んだ。
私のところからは見えなかったけど。
…土曜日行くの?
その子と2人で?
だって、それは…
“好きな人とデートがしたい”
そっか、暁先輩にとってはそんなものだ。
私と出掛けた時と同じ、特にそこに何の意味もない。
リクエストしたから応えただけ、それだけなんだ。
「あ、由夢ちゃん!お疲れ様!」
「…お、つかれさまです」
私に気付いた暁先輩が私を呼んだ。
早くおいでよと手を振って。
今、私笑えてたかな。
せっかく暁先輩が私の名前を呼んだのに。
せめて笑ってなきゃいけないのに。
「会長おつかれーっす!あ、由夢も!」
生徒会室に入ると私を置いていった凛空ちゃんが今日も馬渕先輩に代わってタブレットをいじっていた。仕事を任された凛空ちゃんはやる気に満ち溢れていて、だから早く生徒会に行きたかったんだと思った。
「会長、ヒューヒューっすね!」
「それでどこで覚えたの?」
「こんな時に使うっぽいと思ったので言ってみました」
「ふーん…、まぁ一応ありがとう♡」
いつもより高めの暁先輩の声がやけに耳に残った。
「行くんですか?土曜日」
「う~ん、どうしよっかなー♡」
スルリと暁先輩の隣を抜けて自分の席へ向かった。狭い生徒会、どこにいても誰の声も全部聞こえる。
「でもこれってデートになっちゃうよね?」
あ、嫌だな。
もう聞きたくない…
バンッ!!!
と部屋中に鳴り響く音と共に花絵先輩が立ち上がった。両手で力強く机を叩いたから。
「…ぃい加減にして」
ゆっくりと、低い静かな声。
「何浮かれてんのよ!生徒会長してる人間がそんなんでいいわけ!?バカみたいに浮かれてみっともない!」
“鉄の女”と言われる花絵先輩だけど、感情剝き出しで暁先輩に突っかかるようなことはなく、こんなに怒鳴ってるところは初めて見た。
私も凛空ちゃんも、暁先輩も…戸惑いながらも花絵先輩の方を見た。
しーんっと生徒会室が静まり返る。
きっと自分でもあまりの大声にビックリした花絵先輩が俯きながらハァハァと肩を揺らして息をしていた。
「…最初から行くつもりなんてないよ」
さっきとは全然違う落ち着いた声で暁先輩が話し出した。
「元々学校外での誘いは全部断ってるから、それは俺の理念に反するしね」
“退屈な学校生活を少しだけ彩ってくれる”
青春リクエスションのコンセプトであり、ポリシー。
…ちゃんと、考えてはいたんだ。
暁先輩はまだ青春リクエスションしてたんだ。
私はそこには入っていけなかった。
ただ閑やかな暁先輩の声を聞いてることしかできなかった。
「でも嫌な思いさせてごめんね、花絵ちゃん」
鉛のような重い声だった。
北校舎の最上階4階の左奥の教室、なんでこう生徒会って遠いんだろうな… そんなこと思ったことなかったけど。
いつもはやる気持ちのが大きかったから。
「…あ」
生徒会の前の廊下、暁先輩と1人の女の子が話していた。静かな廊下に声が響いてる。
しまった、変な時に来ちゃったかも。
「暁会長、付き合ってください♡」
「どこに?何をするの?」
語尾に感じた♡マークに嫌な予感がする。
やばい、どうしよ。
ここで聞いてるのもなんだか…
そう思って、咄嗟にその場を離れようと思った。
「今週の土曜日!付き合ってもらえませんか?」
………え?
だけど、離れられなくなった。
その答えが気になって。
「んー、土曜日かぁ。どうだったかなぁ」
暁先輩が腕を組んで、右手を顎の下に当てた。人の話に聞き耳立ててるなんて趣味悪いと思ったけどじぃっと見てしまった。
それは…
さすがに行かないよね?
だってそれは…
「考えとくよ」
たぶん暁先輩は微笑んだ。
私のところからは見えなかったけど。
…土曜日行くの?
その子と2人で?
だって、それは…
“好きな人とデートがしたい”
そっか、暁先輩にとってはそんなものだ。
私と出掛けた時と同じ、特にそこに何の意味もない。
リクエストしたから応えただけ、それだけなんだ。
「あ、由夢ちゃん!お疲れ様!」
「…お、つかれさまです」
私に気付いた暁先輩が私を呼んだ。
早くおいでよと手を振って。
今、私笑えてたかな。
せっかく暁先輩が私の名前を呼んだのに。
せめて笑ってなきゃいけないのに。
「会長おつかれーっす!あ、由夢も!」
生徒会室に入ると私を置いていった凛空ちゃんが今日も馬渕先輩に代わってタブレットをいじっていた。仕事を任された凛空ちゃんはやる気に満ち溢れていて、だから早く生徒会に行きたかったんだと思った。
「会長、ヒューヒューっすね!」
「それでどこで覚えたの?」
「こんな時に使うっぽいと思ったので言ってみました」
「ふーん…、まぁ一応ありがとう♡」
いつもより高めの暁先輩の声がやけに耳に残った。
「行くんですか?土曜日」
「う~ん、どうしよっかなー♡」
スルリと暁先輩の隣を抜けて自分の席へ向かった。狭い生徒会、どこにいても誰の声も全部聞こえる。
「でもこれってデートになっちゃうよね?」
あ、嫌だな。
もう聞きたくない…
バンッ!!!
と部屋中に鳴り響く音と共に花絵先輩が立ち上がった。両手で力強く机を叩いたから。
「…ぃい加減にして」
ゆっくりと、低い静かな声。
「何浮かれてんのよ!生徒会長してる人間がそんなんでいいわけ!?バカみたいに浮かれてみっともない!」
“鉄の女”と言われる花絵先輩だけど、感情剝き出しで暁先輩に突っかかるようなことはなく、こんなに怒鳴ってるところは初めて見た。
私も凛空ちゃんも、暁先輩も…戸惑いながらも花絵先輩の方を見た。
しーんっと生徒会室が静まり返る。
きっと自分でもあまりの大声にビックリした花絵先輩が俯きながらハァハァと肩を揺らして息をしていた。
「…最初から行くつもりなんてないよ」
さっきとは全然違う落ち着いた声で暁先輩が話し出した。
「元々学校外での誘いは全部断ってるから、それは俺の理念に反するしね」
“退屈な学校生活を少しだけ彩ってくれる”
青春リクエスションのコンセプトであり、ポリシー。
…ちゃんと、考えてはいたんだ。
暁先輩はまだ青春リクエスションしてたんだ。
私はそこには入っていけなかった。
ただ閑やかな暁先輩の声を聞いてることしかできなかった。
「でも嫌な思いさせてごめんね、花絵ちゃん」
鉛のような重い声だった。