【電子書籍化】内緒で出産したら、俺様御曹司と結婚することになりました。
途方に暮れていた私は、どうしようかと視線を上げた時、前から歩いてきた人から目を離せなくなった。
――どうしてここにいるの?
そんな言葉が頭の中を支配する。
日本から遠く離れたニューヨークで会うとは思わなかった。
だけど私は、彼と話したことがない。
助けを求めたいけれど、そんなことできるはずがない。
なのに――、ふっと視線が合った気がした。
彼の口元が緩んで、私の前に立ち止まる。
そして英語が飛び交うこの国で、私に向かって日本語で言った。
「ひとりで突っ立って何してるんだ?」
その少しぶっきらぼうな口調は、昔と全く変わっていない。
口調も、仕草も、声のトーンも……。
私の知っている彼のままだ。
全てあの頃と一緒――。
「……迷子です」
きっと彼は私のことを知らないだろう。
私が一方的に知っているだけなのだ。
私が高校時代に一方的に好きだった、片想いの相手なのだから。
水野 晃輝(みずの こうき)それが彼の名前だ。