夕立のあとには……
ふぅ……

小さく息をついた私は、パタンと学級日誌を閉じた。

日直は2人いる。

私と野村さんって女の子。

でも、実際に日直をやってるのは私だけ。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。



私には幼馴染みがいる。

倉持 飛鳥(くらもち あすか)17歳。

家が近所で、生まれたのも10日違い。

母たちは、私たちが生まれて間もなくの頃からお互いの家を行き来してた。

私たちが仲良く遊んでるのを横目に、お茶して、おしゃべりして、子育ての悩みを相談してた。

私たちは、当然のように同じ幼稚園に通い、同じ小学校に通い、現在、高校2年生に至るまで、ずっと一緒に過ごしてきた。

変わり始めたのは、中学生の頃。

小さい頃から、私より可愛かった飛鳥は、名前の響きもあって、いつも女の子と間違われてた。

それが、中学生になり、背が伸び始めると同時に、綺麗に整った顔立ちに、どこか男らしさも加わり、一部の女子からキャーキャーと騒がれるようになった。

でも、飛鳥はやっぱり飛鳥のままで、誰から告白されても付き合うことはなかった。

そんな中学3年のある日。

「ああ、もう無理だ! 全然、分かんねぇ!」

期末テストまで1週間を切ったある日、飛鳥は、教室の左前方にある自分の席に座ったまま、英語の教科書で顔を覆い、音を上げた。

そして、くるっと振り返り、教室の右後ろの方に座る私に向かって大声で叫ぶ。

「なぁ、日和(ひより)! 今日、お前んち行っていい? 英語、教えて!」

教室の反対の角まで届くような声で叫べない私は、ただ無言で頷いた。

それからだった。

周りの態度が変わったのは。

初めは、飛鳥への橋渡しを頼まれることが多かった。

飛鳥と出かけたいから、予定を聞いて欲しいとか、飛鳥に好きな人はいるのか聞いてきて欲しいとか。

でも、飛鳥は、私がそんな橋渡しをすると、決まって機嫌が悪くなる。

「そんなに知りたかったら、自分で聞きに来いって言っといて」

私の橋渡しに、全く効果がないと分かると、今度はいじめに変わった。

初めは陰口だった。

「ただの幼馴染みのくせに、彼女ヅラしてんじゃねぇよ」

すれ違いざまに、ボソッとそんなことを呟かれる。

私は別に彼女ヅラなんてしてないのに。

けれど、別に無視されても悪態をつかれても、もうすぐ卒業。

休み時間も受験勉強してれば、友達がいなくてもいい。

それに、彼女たちは、飛鳥がいるところでは、決していじめてこない。

随分、打算的ないじめだなとは思うけど、私は全く気にしないことにした。



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