大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 そう。
 日織(ひおり)は何故か日本酒に対してのみ、驚くほどに耐性のある子なのだ。
 酔わないわけではないけれど、他の酒のように微量でフニャフニャになったりせずに、しっかり意識を保っていられる。

 一升瓶を飲み干せばさすがに危ないかもしれないが、1合、2合程度ならばおそらく何の問題もないだろう。

 そう修太郎(しゅうたろう)が確信してしまえるほどに、日織は日本酒に強い。

 ただひとつ問題があるとすれば――。


「ただし、度を過ぎることだけは控えてください。でないと日織さんは性に対してやけに積極的になられて危険ですから」

 修太郎が溜め息混じりに小さくそう付け加えたのは、過日それで彼自身が日織に攻め立てられて、物凄く戸惑ったのを覚えているからだ。

 あんなエッチな姿は、自分の前でだけにして欲しい。
 修太郎は心の底からそう願わずにはいられない。


「そっ、そんなっ。人を盛りがついた猛獣みたいに言わないでくださいっ。わ、私だって相手を選びますっ!」

(それは、相手が自分だったからあんなに精力的になられたのだと思ったのでいいんだろうか? それとも、好みの男であれば自分じゃなくても襲ってしまうという意味ですか?)

 日織に限ってそんなふしだらなことはないと頭では分かっているはずなのに、ふと思い浮かんでしまった考えに、情けなくも修太郎の心はチクチクと(さいな)まれそうになってしまう。
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