大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
***

「わー、日織(ひおり)ちゃん。十升(みつたか)から聞いてはいたけど……人妻になっちゃったって本当(ほんとぉ)なんだねー?」

 建物前でガッツポーズをして人妻宣言をしていた日織に、背後からのほほんとした声がかかる。

「わわわっ。一斗(いっと)さんっ」

 寒い冬の日なのに、その人の周りだけまるで小春日和(こはるびより)。そこにいたのは、春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)という言葉がピッタリ当てはまりそうな雰囲気の人物だった。

 十升(みつたか)日織(ひおり)より三つ年上。

 緩めのスパイラルパーマが掛かった動きのあるミディアムロングの黒髪を、センター分けにして黒縁のオーバル型の眼鏡を掛けた一斗は、身長も十升(みつたか)より高くて、おそらく修太郎と同じくらいだろう。


 日織(ひおり)が知る一斗は学ラン姿のまま止まっていたけれど、今の彼は濃紺の和装姿で、どこの大店(おおだな)の若旦那ですか?という雰囲気だった。

 冬だからだろう。

 (あわせ)の上に同色の羽織を羽織っていて姿勢がよく、とてもセクシーに見えた。
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