大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
「え?」

 そうでしたっけ?と思ってしまった日織(ひおり)だ。

 十升(みつたか)の視線を横に受け流すようにして一斗(いっと)を見つめたら「だって僕にとって日織ちゃんは小さい頃から日織ちゃんなんだもの。他に呼び方なんてないでしょ?」と微笑まれた。

 そう言えばそうだ。

 一斗は日織を見つけるなり「日織ちゃん」と呼び掛けてきていた。

 でも、一斗には幼い頃から「日織ちゃん」と呼ばれていたからか、日織にはそれが違和感なく耳馴染んで聞こえていて。

 そこに注目するように仕向けられた今でさえ、別に嫌じゃない。

「不思議なのですっ。一斗さんから呼ばれるのは嫌じゃないのです」

 それで思ったままを口にしたら十升(みつたか)が明らかにムスッとした顔をした。

「何だよそれ。お前、旦那の前でも今みたいに言えんのかよ?」

 自分は日織のことを――呼び捨てではあったけれど――下の名で呼んで手痛いしっぺ返しを喰らったのに。
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