大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 兄貴だけおとがめなしとかおかしいだろ?という不満が、十升(みつたか)からヒシヒシと感じられる。

「そ、それは――」

 正直分からない、と思ってしまった日織(ひおり)だ。


「ん〜? 日織ちゃんのご主人はそんなに嫉妬深いの?」

 何も知らない一斗(いっと)がほわんとした口調でそう問えば、十升がそんな兄をキッと睨みつける。

()え〜っちゅーもんじゃねぇんだよ! 兄貴もこいつのことは〝塚田さん〟って呼べるように練習しといた方がいいぞ」

 これは脅しではない。
 十升の本心から出た言葉だったのだが、一斗は眼鏡の奥の温和そうな目を一瞬だけスッと〝鋭く〟すがめただけで、クスッと笑って弟からの忠告を聞き流してしまう。

「僕は嫌だな。結婚してようとしてなかろうと、僕にとって彼女は〝日織ちゃん〟だ。誰かに言われて呼び名を変えるとか有り得ないよ。――ね? 日織ちゃん。キミもそう思うでしょう?」

 一斗にそう言われると、そうかも知れないと思わされる不思議な力があった。
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