大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
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 売り子をするにしても、ある程度は羽住(はすみ)酒造の実情を知っておいて欲しいというのが、雇用者側の考えだったらしい。


 日織(ひおり)が、一斗(いっと)に手を引かれて社屋内――販売ブースも兼ねているらしい酒蔵とは別棟の建物――に入ると、程よく空調の効いた室内に、一斗と十升(みつたか)の父・善蔵(ぜんぞう)が待っていた。

 一瞬、善蔵も彼の長子である一斗同様和装のように見えた日織だったけれど、よく見ると善蔵の方は洋装に『羽住酒造』と襟字(えりじ)の入った法被(はっぴ)を羽織っているだけで。
 濃紺のその法被、よく見ると白く抜かれた腰柄は、「酒造」という文字が角字(正方形の文字)で連ねられている洒落たデザインだった。

 売り子をする際には自分もその法被を羽織ることになるのだと言われて、とても嬉しかった日織だ。
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