大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
「あのっ、修太郎さん。木って……例えばあれですかね? 昔、一世を風靡したとかいう北海道のお土産の定番、木彫りのクマさん! ひょっとしてお父様はそういうものを作っていらっしゃるのでしょうか?」

 目の端、「うちにもお父様のお部屋に飾ってあるのですっ! シャケを咥えた木彫りのクマちゃんが!」とか嬉しそうにポンっと手を打って夢見がちな表情をする日織の愛らしい姿が見えて、修太郎は思わず胸がキュウッと締め付けられるような愛しさに駆られる。

 しかし同時に、「日織さん、何故に北海道土産に思考が飛んだのですか!?」と思ってしまったのも事実だ。


「えっと……日織さん? その……我々が住んでいるのは山口県ですよ?」

 控えめを心掛けたとはいえ、修太郎はそう突っ込まずにはいられなかった。


「えっと……もしかして山口県にクマはいませんでしたか?」

 ハッとしたように聞かれて、

「……ツキノワグマならいますけど、ヒグマはいませんね」

 ハンドルを握ったまま、クソ真面目に日織からの質問に返しながらも、ではいるからと言ってツキノワグマを工芸品として土産物屋に並べてあるか?と聞かれたら見たことないですよね?と心の中で突っ込みまくりの修太郎だ。けれど、果たしてそれを日織に〝やんわりと伝えるには〟どうすべきかと思案する。

 というかそもそも――。
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