大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
「とても似合っていらっしゃいますよ? ですが、そうですね。ここのところは蝶々結びより――」

 日織(ひおり)の腰の紐をスッと解くと、一文字結びに結い直してやる。

 前に職場でイベントをした際にこの手の前掛けをつけたことがある修太郎(しゅうたろう)は、(はかま)浴衣(ゆかた)などの帯には、リボン結びより一文字結びの方がキッチリとして美しく見えるというのを、年配の同僚から教えてもらったことがあったのだ。
 一度習得したことは滅多なことでは忘れない性質(たち)なのが幸いして、久々だったにも関わらず難なく日織の腰紐の結び目を直してやることが出来た。

 折りたたんだ紐の上に反対側の紐をグルグルと三回巻き付けて、それでも残ったピロンと長い部分を前掛けの内側に入れ込んで体裁を整えてやる。
 無意識に、紐とともに彼女の肉付きの薄い腹付近に手指を差し込んだら、日織が「修太郎(しゅーたろぉ)さっ、くすぐったいですっ」とクスクス笑いながら身をよじって。

「日織さん……っ」

 その仕草のあまりの愛らしさに、思わずギュッと日織を腕の中に抱き寄せてから、〝結局どんなものを身に付けたとしても僕の奥さんは凶悪に可愛い〟という結論に達した修太郎だった。
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