大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 きっと他の人からなら旧姓で呼ばれようが、塚田(つかだ)の方で呼ばれようが、気にならなかった気がする。

 日織(ひおり)は、〝羽住(はすみ)十升(みつたか)というイジメっ子〟が、当時と変わらぬ呼び方で呼んでくるから、また意地悪されるんじゃないかと身構えて落ち着かないんだ、と気が付いた。

 それで日織は、思い切って言ってみることにしたのだ。

「あの、私、もう藤原(ふじわら)では――」
 ないので、塚田のほうで呼んで頂きたいのですっ!と。

 なのにそう言おうとしたら、羽住(はすみ)がそのセリフをさえぎるようにして「水臭(みずくせ)ぇこと言うなよ、藤原。俺たち幼なじみだろ?」とか、これまた日織にとっては青天の霹靂(へきれき)以外の何ものでもないことをさらりと告げてきて。

「わ、私の幼なじみはひとりしかいないのですっ」

 遠い地に引っ越してしまった、1つ年下の丸山(まるやま)葵咲(きさき)という女の子だけが、唯一日織が認識している幼なじみだ。

 その子だけが、変な口調の日織とも、何の偏見も持たずに接してくれた。

 他の子達はみんな――。
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