大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
「あれはね、蒸し上がった米が狙った柔らかさに仕上がっているか、チェックしているんだよ」

 善蔵にそう教えられて、日織は思わず感嘆の吐息を漏らしたのだ。

 硬すぎれば米の形が残るし、柔らかすぎれば粘ついてくっ付いてしまう。
 その辺りの絶妙な蒸し上がり加減を、職人の「感覚」を頼りに蒸しているのだと言う。
 現在十升(みつたか)は、その職人としての「勘」を養うために能見に付いている形だ。

 ちなみに羽住酒造で使われている蒸し器は、昔ながらの(こしき)と呼ばれる 蒸籠(せいろ)と同じ原理を持つ大きな釜のような機械なのだそうだ。
 連続蒸米機と呼ばれる、ベルトコンベアの上に敷いた米に蒸気を当てながら加熱していくものと違い、(こしき)は連続的に処理が出来ないため効率は悪い。
 代わりに、蒸しの調節が細かくできるため、良い蒸米(むしまい)が得られるというメリットを持つのだとか。
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