大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
「え?」
 という声とともに善蔵(ぜんぞう)の視線を感じて、慌ててうつむいて、
「あ、すみません。何も知らないくせにっ」
 と前置きをしてから、でもこれだけはお伝えしなければと思って顔を上げた日織(ひおり)だ。

「私、波澄(はすみ)の温かみのあるお味が大好きなのですっ。もしも大量生産することでそれが変わってしまうんだとしたら……すっごくすっごく寂しいので……それで……あのっ」

 うまく言葉が出なくてもどかしい。

 こんなとき、大好きな修太郎(しゅうたろう)さんなら、的確に自分が言いたいことを相手に伝えられる気がするのにっ!と思ってしまった。

 そうして修太郎なら、日織がこんな風に途中で言葉に詰まってしまっても、伝えたい気持ちを全部全部汲み取ってくれるのだ。


「ありがとうね、日織ちゃん」

 でも、善蔵にも日織の「心」は――百パーセントではなかったかもしれないけれど、伝わったみたいだ。


波澄(うちの酒)を好きだと言ってくれるファンからの言葉は、一番大切にしなきゃいけないものだと私も思っているよ」

 言われてふんわり微笑まれて、日織は何だかくすぐったくなった。
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