大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 それを聞いた一斗(いっと)
「わー、僕、答え間違えちゃったか」
 と心底残念そうな顔をして。

 それが日織(ひおり)にはおかしくてたまらなかった。

「一斗さんってば、変なのですっ。一斗さんは一斗さんなので、お答えに間違いも正解もないと思うのです!」

 フンッと鼻息も荒く一斗の考え方は貴方だけのものなのだから、私の好みうんぬんなんて気にする必要はないのですっ!という気持ちで彼の考え方を全力で肯定したら、
「わーん! 何か、日織ちゃんから思いっきり脈なしって言われてしまったのですっ! 悲しいのです!」
 と一斗が、日織の口調を真似て嘘泣きをして見せる。

 他の人にされたら腹立たしい真似っこも、何故か一斗には腹の立たなかった日織だ。

 きっと修太郎(しゅうたろう)さんに感じているのとは違う意味で、一斗さんには私、一目置いているんだろうな、と思ったりした日織だ。



「一斗さん、馬鹿なことを仰ってないで、真面目にお仕事を教えてください」

 そのくせ思ったことはビシッと言うところが何とも日織らしくて。

 一斗は日織という女の子は本当に奥深いな、と思って感心する。
「じゃあそれ、とりあえず利き酒してみてよ」

 言いながら、「だからこそ僕は昔から日織(ひおり)ちゃんのこと、〝格別に気に入ってたりする〟んだよね」と思った一斗(いっと)だ。

 しかし一斗がどんなに粉をかけてみたところで、日織本人がこの調子では、かけた粉は払い落とされ続けるんだろうな、とも分かるから我知らず吐息が漏れてしまう。


「ねぇ日織ちゃん。キミの修太郎(しゅうたろう)さんは……日織ちゃんのハートをどうやって射止めたの?」

 この、ニュルニュルと掴みどころのない鰻みたいな女の子を、「私は人妻なのですっ!」と自覚させることが出来る男というのは、一体どんな人間なんだろう?と気になってしまった。

「修太郎さんはとってもとっても一途なかたなのですっ。私、彼のそう言うところが大好きなのですっ。――それにっ」

 そこでポッと赤くなると「物凄くハンサムさんなのですっ。私、大人になって修太郎さんと再会して……あまりの格好良さに気が付いたら大好きになってしまっていたのですっ」と「キャーキャー」言いながらモジモジする。

(わー、日織ちゃん、めっちゃ女の顔になってるじゃん)

 頬に手を当てて照れ臭そうにウニャウニャする日織を見て、一斗は何だかこっちまであてられてしまいそうだと思ってしまった。
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