大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 ややして諦めたように小さく吐息を落とすと、

「……式前の大事な時期です。くれぐれも体調にだけは気を付けてくださいね。僕も車を置いたら日織(ひおり)さんのいらっしゃるブースに〝即行で〟顔を出しますので」

 そう告げてチラリと恨めしげに日織を見遣って前方に視線を戻すと、ハンドルを握る手に力を込めてもう一度だけはぁーと大きく溜め息をついた。

「そっ、そんなに急がれなくても私、本当大丈夫ですよっ?」

 〝即行で〟に力を込めたからだろうか。

 途端、日織がひゃわひゃわと慌てたように手を振ったけれど、そこはあえて黙殺した修太郎(しゅうたろう)だ。


 まぁ、修太郎が心配するのもある意味仕方がないことではあるのだ。

 今回の酒蔵祭り。
 昭和の日の開催で、最低気温こそ十四度ちょっとと大分(ぬる)んできてはいるけれど、それはあくまでも街中での体感温度の話。
 祭りは会場が河川敷なので、常に川風に吹きさらされた寒い場所での開催なのだから。

 景観的には修太郎が日織にプロポーズをした錦帯橋(きんたいきょう)をバックにしているのでとても映えるのだが、それと過ごしやすいかどうかはまた別の話。

 会場には各ブースごとに三面に風よけのついたイベント用テントが設営されると聞いてはいるが、一面が全開な以上、それで川風が完璧に防げるとは思えない。

 それに、下手したら突風でテントが倒れる可能性もあるじゃないか、とか考え始めたら心配が尽きなくて胃がキリキリと痛くなる。

 修太郎は、とにかく何もかもが気掛かりで仕方がないのだ。

 叶うことなら自分がずっと日織のそばに立って、彼女を様々な危険性から守りたい。

法被(はっぴ)の中に入って、日織さんと二人羽織できたらいいのに)

 とか何とか馬鹿なことを思っていたりするけれど、さすがにそれは言わずにおいた。
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