大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 むさ苦しい男連中に囲まれた、可憐な一輪の花のような日織(ひおり)の姿に、彼女を売り子にしたいと申し出てきた十升(みつたか)の審美眼をほんの少しだけ「誉めてやってもいい」と上から目線で思った修太郎だ。

 数日前までの自分ならそんな大らかな心持ちでその光景を眺めることは出来なかったかもしれない。
 けれど、先だって日織から多大なる〝愛情表現〟を受け取ったばかりなのもあり、いまの修太郎はほんのちょっと心にゆとりがある。

 どんなにアプローチを掛けられても、日織が好きなのは自分なのだと信じることが出来ればそれほど気持ちは揺れないのだな、と今更のように思って。

 もちろん不必要にベタベタ触られたりしたら黙ってはいられないだろうが、この忙しさではそんな心配もないだろう。

 修太郎は日織にジェスチャーで「近場のブースを回ってきます」と伝えると、本当はかなりのところ後ろ髪を引かれつつも、平気なふりをして羽住(はすみ)酒造のテントを後にした。
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