大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 実際には三人が気付かないところで、更にもう一杯、日織(ひおり)自身が勝手に手酌で注いで飲んでしまったことが『日織寝落ち事件』の決定打だったりするのだけれど、そのことは誰も知らなかったので〝理人が悪い〟ということになってしまった。


塚田(つかだ)さんがひおちゃんにこれ以上飲ませないようになさってらしたの、理人だって分かってたでしょう?」

 葵咲(きさき)にキッと睨まれて、「本当、ごめんって。――けど、お酒の力を借りないと話せないこともあるだろう?」と、謝罪しつつも理人は懸命に反論を試みる。


「――現に葵咲ちゃんだって内々定のこと」

 と拗ねたようにつぶやいて葵咲を見つめたところを見ると、珍しく理人が葵咲に物申しているのはそれが理由らしい。

 それに気付いた葵咲は、「そっ、その話の続きはホテルに帰ってからっ」と慌ててそっぽを向いてしまった。


 程なくして、修太郎が手配したタクシーに乗って二人は帰ってしまったのだけれど――。


(僕はお止めしたのに……。自業自得とはいえ、知らない間にお友達が帰られたって知ったら……日織さん、悲しまれるだろうなぁ)

 そう思ったら、スヤスヤと眠る日織の寝顔を見つめながら、思わず溜め息の漏れる修太郎だ。

 それに――。

 せっかくの〝初夜〟だと言うのに。

 そちらもどうやらお預けになりそうで。

 修太郎的には、何もかもが大誤算だった。
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