大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
 もしこの純粋培養そのものの世間知らずな幼なじみが、盲信し続けた男に裏切られたりしたら。

 その時は仕事くらいは心配しなくてもいいようにしてやろう、とか烏滸(おこ)がましいことまで考えて、粉をかけるつもりで先に提案した催事に絡めた売り子の話の更にその先を考えるのもありかな、と漠然と思ったのだ。

 単発で頼むつもりだった酒まつりの手伝いのその後も、よしんば日織(ひおり)が望むなら、そのまま酒蔵の方の売り子として従業員になってもらっても構わないかな、とかあれこれ。

 それが、――旦那に裏切られたと仮定しての話だが――傷心の身の彼女の息抜きになるなら上等じゃねぇか、と。


 だがまぁ普通に考えて、男に捨てられて泣く日織の顔は見たくないとも思って。

 それで、幼い頃から憎からず思っていた日織のため。
 ちょっとばかり悔しくもあるが、旦那の嫉妬心でも(あお)って仲を取り持ってやるのも悪くねぇかと考えて電話口、わざと試すみたいに日織の旦那を焚き付けるような好戦的な物言いをしてしまったのだが――。


(いやいやいや! 絶対やべーだろ、これっ)


 どう見ても日織(ひおり)だけでなく、男の方も日織に夢中だ。

 下手すると日織が旦那を思っている以上に、眼前の男の愛執の方が優っている気さえする。

 それも、ある意味病的なほどに。
< 44 / 253 >

この作品をシェア

pagetop