君との恋の物語-Red Pierce-
指輪

俺は今、珍しく1人で都内に出てきている。

今週は珍しくさぎりが泊まりにこないので時間が空いた。

さぎりは今日と明日は県内の施設で研修らしい。

就職先の学習塾で授業のない日を使って社員全員が集まるかなり大きな行事らしい。

俺は学習塾業界(?)のことはよく知らないが、社員全員が集まる行事っていうのは、結構珍しいことなんじゃないだろうか?

それも新入社員の為の研修で、というのは。

聞くところによると、研修だけでなく先輩社員を交えてのディスカッション等も行うらしく、さぎりも張り切っていた。

ほんと、元気になったばかりかどんどん成長し、スキルアップに貪欲になれる姿勢は尊敬できる。

俺も、頑張ろう。



そうそう、俺が都内に出てきた理由は、他ならぬ【婚約指輪】のためだ。

ネットで調べてみると、オーダーメイドができるメーカーはかなり多く存在していた。

俺としてはメーカーが有名かどうかはあまり関係なく、むしろ知る人ぞ知る工房のようなところの方が好みだった。

そこで見つけたのが、今から向かう工房だ。

【工房Abel】というところで、場所は三軒茶屋。

駅から徒歩5分のところにある。

Webサイト上に出ていた地図を見ながらきたが、初めてでもわかりやすい位置にあった。

ガラス戸を開けて中に入ると、中は小さなアトリエのようになっていた。

打ち合わせ予約をしていることを告げると、店員はすぐに店の奥に入って行った。



ショウウィンドウには完成された作品や、地金のサンプルなどが飾られていた。

なるほど。地金だけでこんなに種類があるのか。

石も相当な種類がある。

これは面白そうだ。

「お待たせ致しました。片桐様」

『よろしくお願いします。」

「はい、ではこちらへどうそ」

見たところ20代半ばの女性スタッフが出てきた。

ウィンドウ近くの応接セットへ促される。

簡単な挨拶の後、早速本題に入った。

予算のこと、デザインのこと(主にこちらの希望するデザインが制作可能かどうか)、それに地金の特徴や、石の特徴(これは色や加工のしやすさ等)。

全て丁寧に、詳しく教えてくれた。

こちらの質問にも全てよどみなく答える姿は、同年代として尊敬できると思った。

今日のところはこちらの希望するイメージを伝え、いくつかデザインのパターンを出してもらうことになった。また、気に入った地金や石の組み合わせに合わせて見積もりも出してくれるようだ。

2週間後の同じ時間に打ち合わせの予約をして店を後にした。

すっかり昼時になっていたので、近くで見つけた美味そうなラーメン屋に入って昼食を取った。


せっかく都内にいるんだし、とも思ったが、そんなに行きたいところもないので、真っ直ぐ帰ることにした。

電車の中で今日の話の中で取ったメモを取り出し、読み返しながら補足を書いていく。

今日の要点はうまくまとまったな。

電車の中で考えてみたが、今日の店は当たりだと思った。

他にも見てみる予定だったが、それはやめてこのまま進めてみようと思う。

どんなデザインが上がってくるのか、今から楽しみだ!


俺の乗っている電車は、都内の街並みを横目にどんどん進んでいく。

春と初夏の間の煌びやかな日差しの中、俺はさぎりとのこれからを夢見た。

きっとこれから、幸せな日々が始まるに違いない!と心躍らせながら。
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